2026年のヒヌカン上天の拝みを解説｜沖縄の旧暦12月24日「ヒヌカン送り」とは

沖縄では、旧正月を迎える前の旧暦12月24日に、台所の神様・ヒヌカンを天へ見送る「ヒヌカン送り（上天の拝み／昇天の拝み）」が行われてきました。
 
この日は、ヒヌカンが1年間の出来事を天の神々へ報告するために上天すると考えられており、願い事をする日というよりも、1年の無事への感謝と区切りを伝える節目とされています。
 
2026年の旧暦12月24日は、新暦では2月11日（水・建国記念の日）にあたります。
新暦ではすでに年が明けていますが、沖縄の旧暦文化においては、旧正月前の「年末」にあたる大切な日です。
 
本記事では、沖縄の年中行事の本に基づく内容を踏まえながら、旧暦12月24日に行うヒヌカン上天の拝みの意味や流れ、ヒヌカンの掃除や御願解き（ウグァンブトゥチ）との関係について、初めての方にも分かりやすく解説します。
 
地域や家庭によって行い方に違いがある行事だからこそ、「こうでなければならない」と構えすぎず、1年の区切りとして無理なく向き合うための考え方も併せてご紹介します。

2026年の旧暦12月24日はいつ？

沖縄の年中行事は旧暦を基準に行われるものが多く、ヒヌカン送り（上天の拝み）も毎年、新暦の日付が変わります。
そのため、「今年はいつ？」「新暦では何日？」と調べる方も少なくありません。
 
まずは、2026年の旧暦12月24日が新暦でいつにあたるのかを確認しておきましょう。
 
 

2026年は2月11日（水・建国記念の日）

◇2026年の旧暦12月24日は、新暦では2月11日（水・建国記念の日）にあたります。
祝日と重なるため、仕事や学校の休みと重なりやすく、家の拝みごとや準備に時間を取りやすい年でもあります。
 
ただし、新暦ではすでに年が明けているため、「もう正月が終わったのに、なぜ年末の拝みをするの？」と戸惑う方もいるかもしれません。
この点は、沖縄独自の旧暦文化を理解すると分かりやすくなります。
 
 

沖縄では「旧正月前の年末」にあたる日

◇沖縄では、古くから旧正月を1年の始まりとしてきました。
…そのため、旧暦12月24日は、本州でいう12月8日の煤払いのような位置づけとなり、1年を締めくくる「年末」の節目の日と考えられています。
 
この日に行われるヒヌカン送り（上天の拝み）は、新しい願いを立てるための行事ではなく、1年間の無事を感謝し、ヒヌカンを天へ見送るための拝みです。
 
新暦と旧暦の感覚が重なり合う時期だからこそ、「旧暦ではまだ年末である」という考え方を押さえておくことで、旧暦12月24日の拝みの意味も、より理解しやすくなります。
 

旧暦12月24日に行うヒヌカン送り（上天の拝み）とは

旧暦12月24日（2026年2月11日）は、沖縄の年中行事の中でも、1年の拝みごとを締めくくる特別な意味を持つ日です。
 
この日に行われる「ヒヌカン送り（上天の拝み／昇天の拝み）」は、台所の神様であるヒヌカンを天へ見送るための拝みであり、旧正月を迎える前の大切な区切りとして位置づけられてきました。
 
 

ヒヌカンが天へ戻る日とされてきた理由

沖縄では古くから、ヒヌカンは1年を通して家族の暮らしを見守り、家の中で起こった出来事を天の神々へ伝える役割を担う存在だと考えられてきました。
 

 
台所に祀られるヒヌカン（火の神）は、1年を通して、その「家」や「家族」の安寧を守護してきました。旧暦12月24日は、そんなヒヌカンの天への里帰りを送り出す日として、特別な拝みが行われてきました。
 
 

「願う日」ではなく「1年を報告し見送る拝み」

ヒヌカン送り（上天の拝み）は、新しい願い事を強く祈るための日ではありません。
 

 
旧暦12月24日は、御願解き（ウグァンブトゥチ）を行う日でもあり、春のお彼岸などで立てた1年の祈願を、「叶った・守られた」という報告とともに天へ返す意味合いがあります。
 
そのため、「お願いごとをたくさんする日」「強く願えば運が上がる日」といった捉え方は、本来のヒヌカン送りの考え方とは異なります。
 
ヒヌカン上天の拝みは、1年の出来事を静かに振り返り、感謝とともにヒヌカンを見送るための拝みです。
 
旧正月に向けて気持ちを整え、新しい1年を迎える準備をする――
そのための節目として行われてきた行事だと言えるでしょう。
 

ヒヌカン上天の拝みの前に行うこと

旧暦12月24日のヒヌカン上天の拝みは、いきなり見送りの拝みを行うのではなく、その前にいくつかの整えごとを行う家庭もあります。
 
ただし、これらは必ず行わなければならない決まり事ではなく、地域や家庭の考え方によって、行う・行わないが分かれる点も特徴です。
 
 

ヒヌカンの掃除を行う意味と注意点

◇旧暦12月24日には、ヒヌカン祭壇の掃除を行う家庭があります。
ヒヌカンは、香炉（ウコール）の灰に宿る神様とされ、普段はむやみに掃除をしないと考えられている地域も少なくありません。
 

 
また、この日の拝みには、家を掃除し、屋敷の神々へ1年の感謝を伝える「ヤシチヌウグァン（屋敷の御願）」が行われる地域もあります。
 

 
ただし、「必ず掃除をしなければならない」「灰を捨てなければならない」という決まりがあるわけではありません。
掃除を行わず、日頃と同じように拝みだけを行う家庭もあります。
 
ヒヌカンの祭壇を掃除する場合には、「本日は旧暦12月24日なので、掃除をさせていただきます」などと、あらかじめ断りを入れてから行うとされています。
 
なお、ヒヌカンは灰に宿ると考えられているため、香炉（ウコール）の灰の扱い方には注意が必要です。
灰の取り分け方や整え方については、下記コラムにて詳しく解説しています。
 

御願解き（ウグァンブトゥチ）とは何か

◇ヒヌカン上天の拝みの後、続けて「御願解き（ウグァンブトゥチ）」を行います。
天旧暦12月24日は、ヒヌカンを見送る日であると同時に、1年の祈願をいったん終える「御願解き（ウグァンブトゥチ）」を行う日とされてきました。
 

 
この日をもって、「願い続ける」状態からいったん離れ、旧正月に向けて気持ちを切り替える意味合いがあります。
 
御願解きもまた、必ずしもすべての家庭で行われているわけではありません。
ヒヌカン送りのみを行う家庭もあれば、御願解きを重視する家庭もあります。
 
どちらが正しいというものではなく、自分の家のやり方を大切にしながら、1年の区切りとして受け止めることが、この日の本質と言えるでしょう。
 

ヒヌカン上天の拝みの進め方

旧暦12月24日のヒヌカン上天（昇天）の拝みは、「願う」よりも1年の報告と感謝、そして見送りが中心です。
この日は一連の御願の最後に位置づけられるため、順番と準備物をセットで押さえると迷いません。
 
 

ヒヌカン上天の拝みの基本手順

◇旧暦12月24日は、屋敷の御願から始まり、御願解き、最後にヒヌカン上天へ…という流れで進む形がよく知られています。
 
「上天の拝み」は締めの見送りなので、ここだけ単独で切り出すより、前後の位置関係を理解しておくと自然です。
流れの目安は次の通りです。
 

 
この順番は、「家の神々へ感謝を伝える」→「1年の願いを下げる」→「ヒヌカンを見送る」という意味の流れになっています。
 
 

ヒヌカン上天の拝みで供えるお供え物

◇上天の拝みのお供えは、直前の御願解き（ウグァンブトゥチ）で用意したものをそのまま用いてよい、という考え方が軸になります。
…つまり「供えないと失礼」ではなく、1年を締める拝みとして意味のある構成を整える、ということです。
 
一般的に挙げられる供え物は、次の組み合わせです。
 

 
こうした供え物は、お盆や黒膳にまとめて供える家庭が多いでしょう。
うさぎむん（お供え物）を整えるための木箱「ビンシー（瓶子）」を準備している家庭では、ビンシーが便利です。
 

ヒヌカン上天の拝みで供えるお線香の本数

◇ヒヌカン上天の拝みで供えるお線香は、「ジュウゴフンウコー（十五本御香）」です。
これは、日本線香で数えた場合の15本分を意味し、沖縄線香（ヒラウコー）では2枚と半分に相当します。沖縄の言葉では「タヒラ（2枚）半」と表現します。
 

 
沖縄線香「ヒラウコー（平御香）」は、複数本の線香を板状に固めた沖縄独自のお線香で、日本線香の本数に換算しながら用いられてきました。
「ジュウゴフンウコー（十五本御香）」という呼び方は、神様に供える線香の量を分かりやすく示した呼称です。
 

お線香は日本線香でも良い？沖縄の現代事情

◇もともと沖縄では、日本線香は高価で手に入りにくいものでした。
もともと沖縄では、日本線香は香りのある高級な線香で、「カバシウコー（香り御香）」とも呼ばれていました。
 
ただ、その高級さから、一般家庭では、香りのない沖縄線香（ヒラウコー）が主に使われるうちに、沖縄で重要なものとして定着した背景があります。
 
さらに現代では、住宅事情の変化により、かつて壁一面を使ていた大きな沖縄仏壇から、コンパクトな仏壇へと移行する家庭が増えました。
 

 
こうした中で広がってきたのが、沖縄で「サンティン（三天）」とされる「ウティン（御天）・ジーチ（地）・リュウグ（龍宮＝海）」を三位一体として捉える考え方です。
 

 
これは本来の数を否定するものではなく、意味を理解したうえで、住環境と香炉の大きさに合わせて整えた形と受け止められています。
 
お供え物の置き方についても同様です。
かつてはトートーメー（先祖代々位牌）や香炉を中心に、左右対称に多くの供物を並べる形が基本でしたが、コンパクトな仏壇では、それぞれ一つずつ供える形が一般的になりつつあります。
 
沖縄の御願は、形だけを守るものではなく、神様との関係性を、その時代の暮らしに合わせて柔軟に対応してきた文化です。
 
 

ヒヌカン上天の拝みで伝える拝み言葉（グイス）

ヒヌカン上天の拝みでは、決まった文言を正確に唱えることよりも、1年の区切りとしての伝える内容が重視されています。
 
拝み言葉に含まれる要素としては、次の点が挙げられます。
 

 
地域差もありますし、一般家庭であれば家によって拝み言葉には違いがありますが、下記は現代の拝み言葉の一例です。
 

 
締めくくりとして、「ミーマンティ　ウタビニソーリー　ウートートゥ（見守っていてください、あな尊い）」と結ぶ言い回しが添えられることもあります。
 
拝み言葉は、語句の細かな違いよりも、1年を終え、ヒヌカンを見送る気持ちが込められているかどうかが大切です。
 
 

現代の暮らしとヒヌカン上天の拝み

ヒヌカン上天の拝みは、長く受け継がれてきた拝みの形を基盤としながら、住まい方や生活環境の変化に応じて、少しずつ姿を変えてきました。
ここでは、その変化と向き合い方を整理します。
 
 

住環境の変化と拝みの簡略化

◇かつての沖縄の家には、「二番座」と呼ばれる居間に、壁一面を使った大きな沖縄仏壇が据えられていました。
…それに合わせて香炉（ウコール）も大きく、お線香やうさぎむん（お供え物）も、左右対称に、十分な数と量で整えることが可能でした。
 
一方、現代の住宅では、仏壇はコンパクトなものが主流となり、香炉や供え台も小型化しています。
 
この変化により、昔と同じ手順・分量をそのまま当てはめると、物理的に無理が生じる場面が増えました。
 

 
そのため現在では、仏壇や香炉の大きさに合わせて対応する拝み方が定着しつつあります。
これは拝みを軽んじた結果ではなく、暮らしの形に合わせて続けていくための調整と受け止められてきました。
 
 

ウグァンブスク（御願不足）という考え方との向き合い方

◇沖縄には、拝みが十分でない状態を指す言葉として「ウグァンブスク（御願不足）」という考え方があります。
本来、沖縄の御願は、決められた手順や数、配置をきちんと守って行うことを前提としてきました。
 
その背景には、神々への敬意を欠かさず、暮らしの節目を丁寧に重ねていくという価値観があります。
 

 
大切なのは、何も知らずに省くことではなく、意味や背景を理解したうえで、今の暮らしに合った形を選ぶことです。
 
ヒヌカン上天の拝みは、1年を締めくくり、感謝とともに見送る拝みです。
すべてを同じように行えなくても、その意味を理解し、心を込めて拝むことが、この行事の本質とされています。
 

まとめ｜旧正月を迎える前にヒヌカンを見送るということ

旧暦12月24日は、沖縄の暦の中で1年を締めくくる節目の日です。
新しい願いを立てるための日ではなく、1年の出来事を振り返り、無事に過ごせたことに感謝して終える日とされてきました。
 
この日にヒヌカンは天へ里帰りをします。
そして天で年末年始を過ごした後、旧暦1月4日に戻ってきます。
 
ヒヌカンはウティン（御天）の神様へ、その家の1年の良きことも悪しきことも報告する、とは言われていますが、それ以上に1年の守護に感謝を伝える日です。
 
旧正月を迎える前に行うヒヌカン上天の拝みは、そのような姿勢で向き合われてきた、沖縄の暮らしに根づいた年中行事と言えるでしょう。